本文
尾崎君,ISM研究会の皆さん,今井です。
>パソコンの方もいまのところ順調です.
12/30に,データを二台目のHD,Zip,FDと三重にバックアップして,その
上,パソコンの内蔵時計の針を進めて実験してみたりして,わくわくしながら
01/01を迎えたのですが,何も起こりませんでした。
それでは,本題に入ります。正月に入ってから忙しく,なにしろまだ年賀状
の返事も書いていません。ですが,どうもレスが付かないようなので,取り急
ぎ,お答えいたします。
マルクスの該当箇所は,細かい点についてはいくつも疑問が生じるところで
あり,ところどころ前後の文脈のつじつまが合わなくなっており,なかなか解
りにくい部分であると思います。貨幣還流問題については,61-63草稿の頃か
ら,しばしばマルクスは錯乱して頓珍漢なことを言うので,大いに困ります。
で,俺は尾崎君の疑問点を正確に把握することができていません。しかも
『資本論』第2部の第8稿[*1]が手許ありません。ですから,尾崎君の満足のい
く回答になるのか解りません。勘違いなどありましたら,ご指摘ください。
[*1]尾崎君が引用しているのは,『資本論』の第2巻の
第3篇「社会的総資本の再生産と流通」の第20章「単純
再生産」の第11節「固定資本の補填」の中の一箇所で
す。当該箇所は,マルクスの草稿では,第8稿に含まれ
ているのです。エンゲルスはいろいろな草稿のいいとこ
取りをして,現行版第2巻を仕上げました。そこで,前
後の文脈のつじつまの合わないところが,マルクスが単
に錯乱していた(この可能性が最も高い)からなのか,
それともエンゲルスの編集方法に問題があったからなの
かということは,結局のところ,草稿をきちんと確認し
ないとなんとも言えません。
>「(a) 2の商品とし
>てまだ残っている400のうちある分量が部分1と部分2とのために(たとえば
>半分ずつ)不変資本の流動部分のいくらかの分量を補填しなければならない場
>合」とあるが,この「不変資本の流動部分」が流動資本だとしても,なぜこのよ
>うな設定が必要なのか?
“この設定でなければ絶対に駄目だ”という積極的な理由はありません。ま
ぁ,これでこのご質問に対する回答は終わるのですが……。
一応,問題を確認しておきます。尾崎君もご承知のとおり,社会的総資本の
再生産と流通において,転態を媒介する貨幣の運動は前貸−還流というもので
した。つまり,購買において支出された貨幣が販売において出発点に戻ってく
るという運動でした。ところが,やはり尾崎君もご承知のとおり,こと固定資
本部分について言うと,一方的販売と一方的購買という──還流とは全く異な
る──運動が生じるわけです。これが一体どのようにして可能になるのか,一
方的販売において蓄蔵貨幣化する流通手段はどこからやってくるのか──この
問題を第一部門と第二部門との部門間転態について,第二部門のIIcに即し
て,ここで解明しているわけです。
そのために,マルクスは三つの仮定でこれを例解しようとしているわけで
す。三つの仮定はあくまでも例解のための仮定であって,しかるに,“これ以
外のケースはあり得ないのだ”という類の,可能なケースの列挙ではありませ
ん。仮定(a),(b),(c)以外にも多くの可能なケースがあり得るわけです。そ
の中で,IIc=400であり,且つ第二部門の資本家部分2のIIcは≧200ですか
ら,この前提の下で,区切りのいい100という数字で区切って,第二部門の資
本家部分2のIIcが=200であるケース(仮定(c)),=300であるケース(仮定
(a)),=400であるケース(仮定(b))を,マルクスは例解として仮定してみ
たわけです。それだけの話です。
明らかにしなければならない内容は一つだけなのです。つまり,第二部門の
資本家部分1が固定資本の一方的購買のために支出した貨幣(蓄蔵貨幣の流通
手段化)が,第一部門との部門間転態を通じて,第二部門の資本家部分2が商
品資本(但し固定資本摩滅部分)の一方的販売の結果として入手する貨幣(流
通手段の蓄蔵貨幣化)になるということです。だから,形式的に言うと,この
内容を表現するのに,例解として一つのケースだけを取り挙げてもいいし,こ
こでマルクスがそうしているように三つのケースを取り挙げてもいいし,更に
は四つのケースを取り挙げてもいいし,あるいはまた例解を一切用いずに叙述
してもいいわけです。
>また「(a)まだ2の手にある商品価値400cのうち,
>部分1は100を,部分2は300をもっている」とあるが,こんな設定の必要
>があるのか.また上の部分とのつながりはいかなるものか.
これは「設定」ではなく,「上の部分」での「設定」のコロラリ(=系)で
す。400IIcの中で,200IIcは(第一部門に販売された後で)固定資本の減価償
却基金の積立部分──資本家部分2による──に転化しなければならないわけ
ですから,残余は200IIc(総て流動資本)になります。そこで,「部分1と部
分2とのために(たとえば半分ずつ)不変資本の流動部分のいくらかの分量を補
填」するということは,残余200IIcが資本家部分1に100IIc(200IIcの半
分),また資本家部分2に100IIc(200IIcの半分),割り当てられるというこ
とを意味します。こうして,部門二に残っている400IIcの中で,資本家部分1
は100IIc(総て流動資本部分)を,また資本家部分2は300IIc(流動資本=
100IIc,固定資本の減価償却基金の積立部分=200IIc)を「もっている」とい
うことになります。
>最後に「要する
>に,400の貨幣のうち,部分1は300を,部分2を100を前貸ししたので
>ある.」とあるが,これは部分1と2のそれぞれの総額を400にあわせる
>ために必要だと思われるが,そうだとすると,この出発点は1部門の400m,
>2部門の400W,そして貨幣400と想定できるが,この前のところでは400の
>貨幣が200ずつに分かれることとどのように関係するのか.
先ず,「この前のところでは400の貨幣が200ずつに分かれること」につい
て。第二部門において支出される400の貨幣の中で,200は必ず固定資本の更新
に当てられなければなりません(しかもこの更新を行うのは資本家部分1だけ
です)。そこで,400の貨幣が200「ずつに分かれること」になります。
次に,「部分1は300を,部分2を100を前貸ししたのである」について。第二
部門において支出される貨幣400の中で,貨幣200は必ず固定資本の更新に当て
られなければなりません。従って,400の貨幣の中で,少なくとも貨幣200は必
ず資本家部分1によって“前貸”されなければなりません。ここまでは,上の
段落と同じです。しかし,残りの貨幣200がどちらの資本家部分によってどの
程度“前貸”されるのかには自由度があります。
もし第一部門の資本家がこの400Imと400IIcとの部門間転態において貨幣を
前貸しないのであれば,仮定(a)では,残余の貨幣200の中で,資本家部分1が
貨幣100を,また資本家部分2が貨幣100を“前貸”するということになるので
す[*1]。何故ならば,資本家部分1が価値実現するべき流動資本部分の商品資
本が100IIcであり,且つ資本家部分2が価値実現するべき流動資本部分の商品
資本が100IIcであり,しかも(この価値実現に必要な流通手段を第一部門の資
本家が前貸しない以上)資本家部分1も資本家部分2も自己の商品資本の価値実
現に必要な流通手段を自己自身で前貸しなければならないからです。こうし
て,資本家部分1は固定資本の更新に貨幣200を,流動資本の補填に貨幣100
を,従って合計で貨幣300を“前貸”したのに対して,資本家部分2は流動資本
の補填に貨幣100を前貸したわけです。つまり,「部分1は300を,部分2を100
を前貸ししたのである」ということになります。
[*1]言うまでもありませんが,この部門間転態において
貨幣の平均流通速度が2であるということ──つまり,
総額800(=400Im+400IIc)の商品資本の流通に必要な
流通手段の総量が貨幣400であるということ──が絶対
的な前提です。
最後に,「どのように関係するのか」ということについて。必然的な関連は
ありません。「400の貨幣が200ずつに分かれる」という命題は,固定資本更新
部分(既に前期までに積み立てられてきた)=固定資本減価償却基金積立部分
(今期から積み立て始める)=200という前提の系です。これに対して,「400
の貨幣のうち,部分1は300を,部分2を100を前貸しした」という命題は,「部
分1と部分2とのために(たとえば半分ずつ)不変資本の流動部分のいくらかの分
量を補填」するという前提の系です(しかも,400Imと400IIcとの部門間転態
において,第一部門の資本家は流通手段を前貸してはならないという前提が加
わっています)。両命題がそこから直接的に導出されるべき前提が互いに異な
っているのです。だから,両命題に必然的な関連はありません。実際にまた,
仮定(b)でも(c)でも,(仮定(a)と同様に)「400の貨幣が200ずつに分かれ
る」わけですが,しかし,仮定(b)および(c)では,(仮定(a)とは異なって)
「400の貨幣のうち,部分1は300を,部分2を100を前貸しした」という命題は
成立しません。
このように,両命題に必然的な関連はないのですが,だからと言って全く無
関連かと言うとそうではありません。部分1と部分2とが“前貸”する大きさ
も,結局のところ,固定資本更新部分(既に前期までに積み立てられてきた)
=固定資本減価償却基金積立部分(今期から積み立て始める)=200という前
提によって──一意的に決定されるのではありませんが──制約されているわ
けです。従って,「400の貨幣が200ずつに分かれる」という命題がヨリ本源的
なのであって,この命題を前提した上で,(a),(b),(c)という三つの仮定を
おいて,その中で仮定(a)の場合には「部分1は300を,部分2を100を前貸しし
たのである」と,マルクスは例解しているわけです。重要な数字は100とか300
とか400とかではなく,商品についても貨幣についても,200(固定資本更新部
分=固定資本減価償却基金積立部分)なのです。
尾崎君にとっての問題がどこにあるのかまだ正確に把握していないのです
が,解りにくいのは「部分1は300を,部分2を100を前貸しした」という部分で
の「前貸し」という表現なのではないでしょうか。この前貸が資本前貸から区
別されなければならないのは言うまでもありませんが,それ以外にも,通常で
は,100の流通手段を前貸すると,100の流通手段が還流するはずです。しか
し,この場合の「前貸し」というのは第二部門全体の立場から見た表現であっ
て,第二部門の資本家部分1or2の立場から見た表現ではありません。
第二部門の資本家部分1or2の立場から見ると,資本家部分1は貨幣300を“前
貸”したのにも拘わらず,この資本家部分1の手許に“還流”してくるのは100
でしかなく,これに対して,資本家部分2は貨幣100を“前貸”したのにも拘わ
らず,この資本家部分1の手許に“還流”してくるのは300にもなるのです。だ
から,厳密に言うと,前貸・還流したのは,資本家部分1についても資本家部
分2についても100なのです。ところが,第二部門全体の立場から見ると,400
の貨幣が前貸されて400の貨幣が還流するわけです。“前貸”の際には,資本
家部分1は300,資本家部分2は100を支出したのですが,“還流”の際には,資
本家部分1は100,資本家部分2は300を入手するのです。
要するに,固定資本の更新と減価償却基金の蓄積とを考察すると,部門1
(I(v+m))と部門2(IIc)との部門間転態を通じて,資本家部分1(第一部門
から購買するべき更新固定資本については一方的購買者)の手から資本家部分
2(第一部門に販売するべき固定資本摩滅部分の商品資本については一方的販
売者)の手に貨幣200が移転したということになります。
>この部分と前後の関係からいえば,まず前のほうについては,エンゲルスの注5
>2に「この数はまたしても前の仮定と一致しない.とはいえ,ここでの問題はただ割
>合だけであるから,この不一致はどうでもよいのである.」とある.これを考慮にい
>れた上で,上の問題は解けるのであろうか
尾崎君が解くべき「上の問題」というのを俺はきちんと把握できていないの
ですが,エンゲルスの注52について言うと,いきなり400Imと400IIcという数
字が出てくるということを指して,エンゲルスは「この数はまたしても前の仮
定と一致しない」と言っているのだと思います。
>後者の部分でいえば,後のS.460以降で同じようなことをやっているように見える
>(同じかどうか,実際,当の問題の個所がわからないのであるから,推測でしないので
>あるが).この後の部分と該当個所は,同じ趣旨のことを述べているのか,否か?
問題そのものは全く同じです。但し,問題を純粋に考察するためには,
S.460以降の方が遥かに解りやすいと思います。残余の400なんてどうでもいい
のです。問題は,固定資本更新部分についての資本家部分1の一方的購買
(=200)と,固定資本減価償却基金積立部分についての部分2の一方的販売
(=200IIc)とを,貨幣がどのようにしてが媒介するのかということなのです
から。
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このML参加者の中には,ドイツ語が読めない方もいらっしゃいます。英語以
外の言語については,止むを得ない場合を除き,お手数ですが,訳文を掲げて
いただいた方がレスが付きやすいかと思います。老婆心ながら。